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updated date : 2018/03/04

結婚しない友人

これは俺の友人の話。

久しぶりに一緒に飲んでいる時に、話してくれたものだ。

友人は既に40歳を超えているのだが、いまだに結婚はしていない。

男から見ても、長身で、イケメンだし、性格もすこぶる良い。

だから、よく女性に言い寄られる。

更に、彼は一戸建ての家に1人で住み、それなりに裕福な生活をしている。

ギャンブルも一切せず、贅沢もしない。

次男だから家を継ぐ必要も無い。

趣味は、音楽と釣り。

ある意味、結婚したいと思わせる要素が溢れているように思えるのだが、全く

結婚願望が無いのである。

それどころか、親や親戚が持ってくる縁談や、友人からの紹介なども、全て

丁重に辞退している。

そんな彼に、以前、尋ねた事があった。

どうして、結婚したくないのか?と。

すると、こんな返事が返ってきた。

だって、もう同棲してるから・・・。

というか、気持ちの上ではもうしっかりと結婚してるんだよ。

日頃は、いちいち説明するのが面倒くさいから、言ってないんだけど、

お前は、どうやら、そういうのが見えたりするタイプらしいから、話すんだけどな。

こんな感じだった。

それを聞いた俺が、

え?そうなの?

全然知らなかった!

でも、そんな女性、前から居たっけ?

でも、もしそうなら、相手の女性もそろそろ結婚したがってるんじゃないの?

と言うと、彼は少し笑って、こう話してくれた。

彼には、中学生の頃に、彼から告白して付き合い出した彼女がいたそうだ。

そして、彼氏彼女という関係は、高校、大学に入っても続いた。

そして、お互いが社会人になり、ちょうど3年が過ぎようとしていた時、彼の

方から結婚を申し込んだ。

勿論、彼女も嬉しそうに頷いてくれた。

ずっと望んでいた夢が叶ったといって、嬉し涙を流してくれた。

そして、無事に結納も終わり、いよいよ結婚も間近という時に、彼女は突然、

交通事故で亡くなってしまった。

彼は、彼女が死んでしまったことが信じられず、ずっと悲しみ続けた。

そして、事故を起こした相手のドライバーを心の底から恨んだ。

相手のドライバーを殺して、自分も死のうとさえ、思ったという。

仕事も手につかなくなり、自暴自棄になり、酒を飲んでは、暴れていた。

そんな時、彼の夢の中に彼女が出てきてくれた。

夢の中とはいえ、再び彼女に会えた事が彼はとても嬉しかった。

しかし、夢の中の彼女は、どこか元気が無かった。

やはり、事故で死んだ事で苦しんでいるのか?と聞くと、首を横に振った。

そして、夢の中の彼女は、こう言ったという。

事故で死んだ事は運命なのだろうから、悲しいけれど受け入れている。

ただ、私が死んでからの貴方を見ていると、心配で居ても立っても居られない位に

悲しくなる。

だから、私が受け入れた様に、貴方も私の死を運命だと受け入れて欲しい。

そして、事故を起こしたドライバーをこれ以上、恨まないで欲しい。

きっと、そのトライバーは、貴方が思っている以上に、社会的な制裁を受け、

そして、罪の重さに苦しんでいると思うから。

そんな風に、誰かを恨み、自暴自棄になって、以前の素敵だった貴方の

性格が歪んでいく事の方が私には悲しい。

貴方は、きっと自分が思っている以上に素敵な男性なのだから。

だから、私の事は、すっきりと忘れて、早く新しい彼女を見つけて欲しい。

そして、もしも、1つだけワガママを言わせてくれるのなら、私はあの世に

のぼらず、ずっと貴方の側で貴方が幸せに年老いていく姿を見ていたい。

勿論、貴方が誰かと付き合い、結婚したとしても、私には、それも、ひとつの

幸せだと感じられる自信がある。

貴方の幸せな姿を見ている事が、私の一生の願いだったし、夢だったのだから。

だから、このまま、貴方の側で、貴方が年老いていくのを見てても良いですか?

こんな感じだった。

それから、彼はしばらく会社も休んで、一日中、考える日々を送った。

彼の幸せに年老いていく姿を見ていく事が彼女の幸せなのだとしたら、俺の

望む幸せというのは、どういうものなのか、と。

彼女が居なくなった今、自分が彼女にしてあげられる事は、何があるのか?と。

その答えは、1つしかなかったという。

それは、彼女が、ずっと彼の側に居てくれるのだとしたら、彼もまた、ずっと

彼女の側に居てあげたいという事だった。

そして、彼は、誰とも付き合わず、誰とも結婚しない人生を選択した。

いや、彼女と結婚する前の、付き合っていた頃から少し進んだ、同棲するという

関係を築き、それを続けていく事を・・・・。

そして、彼がそう決断してから、彼女は毎晩のように、彼の夢の中に現れて、

ずっと悲しそうな顔をしながら、彼を見つめていた。

貴方には、もっと、ちゃんとした幸せな人生を送って欲しい・・・・と。

しかし、彼は夢の中で、毎晩の様に、その言葉に、こう返していた。

どんな人生を俺が望んでいるのか、分かってくれないの?

俺には、これが、最良の選択なんだから・・・・。

そして、それからは、徐々に、彼女は夢の中で、悲しそうな顔はしなくなっていった。

というか、そのうち、夢にも現れなくなった。

彼は夢に現れてくれなくなった事で、一瞬、寂しさを感じた。

だが、すぐに、そんな気持ちは消え去ってしまう。

家の至るところに、彼女の痕跡が見て取れるようになったからだ。

そして、それは次第に、具現化していき、そのうち、彼には彼女の姿が見える

ようになっていった。

出勤する時、帰宅した時、食事をしている時、風呂に入っている時、いつも

彼女は彼の側でニコニコと笑っていてくれる。

そして、今、住んでいる新築の家も、彼女が好きな場所を選び、彼女とよく

話し合って、間取りを決めた。

そして、最近では、彼が仕事から帰ると、部屋が掃除され、整理整頓されている

ようになり、朝は、彼女の、おはよう!の声で目覚めるようになった。

だから、今は、これ以上はない位に幸せなのだそうだ。

その話を聞いて、俺は、別の友人が送っている、亡くなった奥さんとの生活の話を

思い出した。

そして、俺が、

それじゃ、一生結婚しないんだ?

と聞くと、

だから、言ってるだろ。

もう結婚してるのも同然だって・・・・。

最近では、仕事で女性と打ち合わせをすると、すぐにヤキモチを妬かれてしまい、

ただでさえ、大変なんだからさ・・・・。

そう言って、笑う彼の顔は、確かにとても幸せそうだった。

そして、

遅くなると、怒られるからそろそろ帰るわ、

と言い席を立ち、店から出て行く彼の横には、とても幸せそうな顔の小柄な女性が

ニコニコと笑いながら、俺に向かって丁寧にお辞儀をしているのが見えた。

2人の関係がずっと続いていく事を切に願っている。

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コメント

No title

めちゃくちゃいい話し。