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updated date : 2018/03/08

護符

Aさんという女性は、なかなか手強い女性である。

態度もでかいし、口も悪い。

Aさんに助けてもらった事も数多いが、Aさんのお陰で危険な目に遭った

事も相当な数になる。

それでも、やはりAさんと仲良くなると便利な事もある。

その1つがAさんから貰う護符・・・である。

一見、何の変哲も無い紙切れにしか見えないのだが、その護符が在ると無いと

では、怪異の遭遇率が大きく変わる。

いっその事、通販で売れば?

と思ったりするのだが、当のAさんはお金には興味が無いらしい。

それよりも、面倒くさい事が何より嫌いだから、必要に迫られた時にしか

造らない、と言うのだから、勿体無い

話かもしれない。

そして、以前、こんな出来事があった。

彼は公務員をしながらバンド活動をしていた。

つまりは俺とAさんの共通の友人だ。

郊外に一戸建てを建てて、奥さんと子供2人の4人で仲良く暮らしていた。

そんな彼の楽しみは仕事が終わり帰宅してから、自分の部屋で映画を観る事。

部屋には防音が施され、沢山のスピーカーと大型スクリーンに囲まれた

その部屋は、まるで小さな映画館といった感じだ。

その部屋で、好きな映画のブルーレイを、酒を飲みながら鑑賞する。

大きなソファーも備わっており、そこで横になったまま観る映画は最高らしい。

ただ、やはりそんな快適な部屋に居ると、ついつい眠たくなってしまう。

だから、彼はいつも映画の途中で居眠りをしてしまい、夜中に奥さんに起こされる

というのが日課になってしまっていた。

そんな彼をある時、異変が襲った。

映画を見ていた時、突然、大きな揺れの様なものを感じ、部屋の電気も全て

消えてしまった。

慌てて部屋から出て家族の安否を確認したらしいのだが、どうも、その時揺れを

感じたのは彼だけのようであり、確かに他の部屋の電気は全く消えていなかった。

だから、その時は、

もしかすると、寝ぼけてたのかもな・・・。

という結論に達したという。

しかし、それからが本当の怪異の始まりだった。

彼が1人で部屋の中で映画を観ていると、映画の音声に混じって、

ケラケラという笑い声や、怒りに満ちた叫び声のようなものを聞くようになる。

それも、それらの音は彼の耳のすぐ近くから聞こえていた。

最初は、音声システムの誤作動かな、とも思ったらしいのだが、それから

その笑い声や叫び声は映画を観ていなくても聞こえるようになる。

しかも、それは彼が部屋に居る時だけに限って起こるのだ。

さすがに気味悪くなった彼は、Aさんに相談したという。

すると、数日後、Aさんが護符を届けてくれた。

しかし、その時、Aさんはかなり多い数の護符を用意してくれたらしいのだが、

彼は、自分の部屋に貼る1枚だけで良いから・・・。

と、そのほかの護符はAさんに返したらしい。

部屋に入れなくなったら、家のほかの場所が危なくなる、というAさんの

アドバイスを無視して・・・。

実際、彼はその時でも霊障などは信じておらず、ただ気休めにAさんに護符を

頼んだだけだったらしい。

そして、持ち帰った護符を自分の部屋の壁に貼った。

すると、まるでそれまでの怪異が嘘のように、彼の部屋には再び平和な時間が

訪れた。

そして、その平和な部屋の中で彼は毎晩の様に映画鑑賞を楽しんだ。

何も起こらなくなると、人間というのは気が大きくなるものらしく、彼は

それまでに起こっていた怪異すら、きっと気のせいだったのだろう、と

勝手に決め付けてしまったようだ。

それから、彼自身は平和で充実した時間を過ごしていたようだ。

奥さんが少しずつ痩せていき、子供達の顔色もだんだんと悪くなっていく。

それでも、彼は対して気にも留めず、いつものように仕事から帰宅すると

映画を観ながら寝落ちしてしまう、という生活を繰り返すようになる。

そして、ある日の夜、いつものように映画を観ていた彼はそのまま寝落ちしてしまった。

翌日は休みだったらしく、いつもより夜更かししていたのだという。

そして、彼の寝息を聞いたのか、奥さんが彼の部屋のドアを開けた。

彼は、いつものように、

あっ・・・ごめん、ごめん。

また、寝ちゃってたかな?

そう言いながら、身体を起こしてドアのほうを向いた。

すると、そこには、開いたドアの向こうから、奥さんと並んで立っている

2人の女の姿が見えた。

誰だ・・・こいつら?

いつもなら寝ぼけてしまう彼だったが、さすがにその時は一気に目が覚めた。

そして、もう一度ドアの方を見ると、間違いなく見知らぬ女が奥さんの横に

立って、彼を恨めしそうに睨んでいた。

どうやら、部屋には入ってこられないそれらの女は、奥さんがまるで

子供に見えてしまう程、身長が高かった。

いや、高いという表現を通り越して、まるで酷い猫背になって、彼の部屋を

覗き込んでいた。

しかし、どうやら、その女達の姿は奥さんには見えていないらしく、

ちゃんと、電気消して寝てよ!

と言う言葉を残して奥さんがドアを閉めた。

そして、ドアが完全に閉まるまで、ずっとその女達の目が彼を睨んでいた。

その時、彼は初めて分かったという。

彼の部屋に怪異が起こらなくなったのは、やはりAさんから貰った護符の

お陰なのだということを・・・。

そして、彼の部屋に入れなくなった霊が、彼の見ていない家の中で

怪異を起こすようになっていたという事を。

その為に、霊障は、彼ではなく奥さんや子供達に向けられていた事を・・・。

それから、彼はすぐにAさんに連絡して、あの時、返した護符をもう一度

もらえないか、と頼んだらしい。

その時、Aさんは、

だから、言ったでしょ?

と笑いながら、すぐに新しい護符を用意してくれた。

そして、Aさんから護符を貰い、家の中の

いたる所に貼りまくったところ、

それからは、家の中で怪異は全く起こらなくなったそうである。

奥さんも子供達もみるみるうちに元気を取り戻した。

ちなみに、我が家にも、しっかりAさん特製の護符が貼られているが、半年も

しないうちに、その護符は真っ黒になってしまう。

だから、もしもAさんの護符が無かったら・・・と思うとさすがに

恐ろしくなる。

勿論、その代わりに、俺はAさんに色々とご馳走をしなくてはいけないのだが。

まあ、持ちつ持たれつ、というところなのかもしれない。


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