FC2ブログ
                
updated date : 2018/03/08

初七日

これは俺の友人宅で起こった話である。

彼の家は自営で日本料理の店を経営しており、友人である彼は2代目

という事になる。

店はかなり繁盛しており、友人である俺でも、なかなか予約が取れない

状態だった。

それでも、仕事で東京などからやって来たお得意さんを接待したいと

思って無理を承知で頼んでみると、無理やりにでも何とか席を確保

してくれるという優しい人間だ。

実は、加賀料理が大好きなAさんも。この店の常連になっていた。

まあ、俺が連れて行ったのがいけないのだが、金欠になると、よく

その店に食べに行き、お代は俺につけてくる、というとんでもない事を

やっているようだった。

それなりに名の通った日本料理店ともなれば、それなりの金額になるのだが、

そんな店へAさんは1人で出掛け、たらふく食べて帰ってくる。

そして、俺がその店に行くと、

あっ、そういえば、先日もAさんが食べに来てくれて・・・。

で、これがその請求書・・・・・・。

と言って高額な請求書を提示される。

もっとも、彼がその額面の通りにお金を支払わせて事は無い。

いつも、気持ちだけで良いよ、と言って俺からは数千円しか取ろうとしない。

本当に頭が下がってしまう。

それは、俺との友情とかいうものではなく、単に、彼がAさんのファンだから

なのだと思っている。

俺がいつもお店に行くと、

あんな綺麗な人がお店に来てくれるだけで、店が華やかになる、とか

お前も良くあんな綺麗な人と知り合いになれたもんだよ。

羨ましい・・・。

といつもAさんの話題になってしまう。

まあ、知らぬが仏・・・というやつだ。

話を戻そう。

そして、彼には奥さんと、中学生の長男、そして小学5年生の長女がおり、

郊外の一戸建てに彼の両親と共に暮らしていた。

俺も何度かお邪魔したことがあるが、日本料理の店のオーナーの家とはとても

思えないような洋風の家であり、昔はハードロックバンドをやっていた

趣味のせいか、家の至るところにとてもファンキーな装飾が飾られている。

奥さんもとても明るく気さくな女性であり、その子供達もとても元気が良く、

それでいて、礼儀も行き届いているというまさに理想的な家族だった。

その中でも、小学5年の長女は、いつも明るく元気過ぎるくらいの子供

であり、よくお店を手伝ったりするのだが、その際にはいつもお客さんから

アイドル的な存在になっていた。

あのAさんでさえ、服の上から料理をかけられても、たとえ、“おばちゃん”

と呼ばれても笑って済ますというのだから、相当なものだ。

しかし、世の中というのは本当に理不尽なものである。

その日、ある些細な事が原因で、小学5年の娘が家を飛び出した。

娘がどうしても山に連れて行って欲しい、と頼んだらしいのだが、忙しい

両親は、我慢しなさい!とだけ言って娘のお願いを聞いてあげなかった。

実際、お店を開けるマテには、本当に色々な仕事があり、とても山に連れて

行く余裕など無かったのだが・・・。

そして、それから数時間後、警察から連絡が入る。

娘さんが交通事故で亡くなったというものだった。

仕事も放り出して急いで病院に向かった。

其処には、変わり果てた一人娘の姿があった。

体中が泥だらけになっており、顔だけは綺麗なままで、まるで眠っている

かのようだったという。

そして、その横には事故に遭った際もずっと握り締めていたという花束が

そっと置かれていた。

それからは店も休み、娘の葬儀に忙殺された。

悲しい筈なのになぜか涙が出てこなかった。

あまりに酷い悲しみに直面すると、人は涙が出ないと聞いた事があるが、まさに

そんな感じであり、涙を言ってきでも流してしまったら、そのまま悲しみに飲み込まれ

二度と立ち上がれない・・・そんな確信があったという。

そして、無事に葬儀も終わると、家の中は完全に灯が消えたようになってしまい、

お店も開ける気が全く起こらなかった。

そして、奥さんが亡くなった娘さんの部屋を整理していた時、ふと、娘さんの日記

のようなものを見つけた。

そこには、

もうすぐ、大好きなお母さんとお父さんの結婚記念日だ。

だから、私も今年こそは何かプレゼントしなきゃ・・・。

うん・・・そうだ。

山に行ってお花を摘んできて大きな花輪にして贈ろう!

喜んでくれるかな?

そんな事が書かれていた。

その時、娘が山に行きたいと言ったのが、単なるワガママではなく、

夫婦の結婚記念日のプレゼントを贈る為だった事に気付き、奥さんと彼は

号泣した。

そして、

すまなかった・・・。

お前を殺したのは私達かもしれないな・・・。

そう思うようになっていった。

そして、その直後から家の中で怪異が発生するようになる。

誰もいない筈の娘の部屋から声が聞こえたり、バタバタと走り回るような

音が聞こえた。

夜、寝ていると、娘の声と思われる歌が、家中に響き渡った。

そして、どれも急いで娘の部屋を探すのだが、やはり誰もおらず・・・。

そんな時、俺が彼の家に用事で出かけた際、ある事に気付いた。

それは、家中の者達がげっそりとやつれ、その目はどこか焦点が

定まっていない。

そして、それは何かに取り憑かれた人に現れる症状と同じだった。

不安になった俺は、Aさんに相談した。

すると、いつもなら、面倒くさそうな対応しかしないAさんが、すぐに

彼の家にいく事に了解してくれた。

そして、その道すがら、

辛い結果になりそうですから、Kさんも協力してくださいね・・・。

といつもは絶対に言わないような言葉を口にする。

理由を聞こうとしたが、その時のAさんの辛そうな顔を見て、やはり聞けなかった。

彼の家に到着し、玄関の呼び鈴を鳴らすと、しばらくして彼ら夫婦が出てきた。

どうした?何かあったのか?

と聞く彼らに、俺はとりあえず家にあがらせてくれ、と頼み込む。

不思議そうな顔で、俺とAさんを家の中に入れてくれた彼ら夫婦に、Aさんが

口を開く。

はっきり言いますね。貴方達ご夫婦を始め、この家の方全てが取り憑かれています。

そして、残念ながら、取り憑いているのは、亡くなられた娘さんです。

そこまで聞くと、彼らはどこか心当たりがあったのか、

もしも、そうだとしたら、ソレはある意味、嬉しい事かもしれません。

だって、もう一度、娘に会えるという事ですからね・・・。

それを聞いてAさんの顔が急に厳しくなり、こう返した。

違うんです。そうじゃない。

貴方達はそれで良いのかもしれないけど、このままだとあんなに可愛い女の子が

ずっと、現世に縛られてしまうんです。

人は亡くなると、7日間の間、この現世に留まります。

その間に、あの世に行く準備もしなくてはいけないし、これからどうするのかも

決めなくてはいけないんです。

あの世に行くのか、それとも、このまま現世に留まるのか・・・。

ただし、現世に留まるというのは、余程の恨みがあるか、自殺してやむを得ない

場合を除き、例外中の例外です。

だから、当然、現世に留まった霊は孤独で寂しい思いをする。

そして、そのうちに悪霊に変化するものが殆どなんです。

そうなったら、もう何処にも行けない。

もしかすると、そのうちに悪霊にさえ、なってしまうかもしれません。

それで良いんですか?

少なくとも私は、あんなに可愛かった娘さんを、浄化するなんて、御免です!

それを聞いてもじっと俯いている彼ら夫婦に、Aさんは優しく聞いた。

娘さんの初七日が明けるのはいつですか?と。

すると、それは明後日だという。

そして、Aさんは、こう続けた。

もしも、明後日に初七日が明けるまでに、娘さんをこの家に入れてしまったら

もう何をやっても無理です。

だから、どんな事があっても絶対に娘さんを家に入れてはいけません。

酷なようですけど、それが娘さんにとっても最良の道だから・・。

分かって頂けませんか?

すると、彼ら夫婦は顔をAさんに向けて、

本当にそれが娘にとって最良なんですね?

と返し、Aさんが大きく頷くと、夫婦は泣きながら、

宜しくお願いします・・・。

と声を絞り出した。

それから何度か、不思議な事が起こったらしいが合えて、彼らはそれに

反応しない様にした。

そして、ちょうど初七日が明ける日の昼間、突然の電話が掛かってくる。

電話に出ると、聞こえてきたのは亡くなった娘の声だった。

まるで、生前と変わらず元気な声で、

今夜帰るから玄関の鍵かけないでね!

それだけ言うと電話は切れた。

娘さんの声を聞き、さすがに動揺してしまったが、それでも何とかその電話の件を

俺に知らせてくれた。

Aさんに連絡すると、

それでは、今夜、家に出向かないといけないですね・・・。

今夜が勝負ですから・・・。

そう言って、電話が切れた。

夕方、彼の家に着くと、既にAさんが彼の家に着いていた。

玄関の回りを清め、娘さんの霊が玄関に近づき難くする為に、色々と何かを

やっている。

俺が、

そんな事するくらいなら、いっその事、家に近づけない様にすれば?

と言うと、

相変わらず単純な脳細胞ですよね。

そんな事をして、彼ら夫婦が本当の意味で納得しますか?

娘さんの死を受け入れて、それでもこれから前を向いて生きていける様に

しないと何の意味も無いでしょ?

もうこうなってしまったら、彼ら夫婦と娘さんの両方を満足させる最良の結果

は難しいけど、それならせめて生きている彼らだけでも何とか最良の結果に

持っていってあげないと・・・・。

そう言われた。

そして、家の中へ戻り、家の明かりを全て消したまま待機する。

そして、ちょうど午後9時位になると、突然、玄関の

呼び鈴が鳴らされた。

玄関に向かおうとする夫婦をAさんが制止する。

静かに・・・、出来れば、このままやり過ごすのが一番ですから・・・。

すると、玄関の方から、真っ暗な部屋の中に娘さんの声が響いてくる。

ねぇ、開けてよ・・・どうして鍵が掛かってるの?

ママもパパも私の事、嫌いなの?

私はこんなにママとパパが好きなのに・・・・

ねぇ・・・・ねぇ・・・・・。

そして、玄関のドアが、ドンドンと叩かれる。

その間、本当にこれが最良の方法なんですよね?と念を押すように、彼ら夫婦が

Aさんの顔を見る。

そして、そのうちに、玄関を叩く音も、娘の声も聞こえなくなった。

彼ら夫婦は、悲しみと安堵感が入り混じった神妙な顔で息を殺していた。

すると、突然、すぐ近くから大きな声が聞こえた。

見~つけた!

娘さんの声だった。

全員がその声のする方を見ると、窓に張りついた娘さんがニコニコと笑いながら

こちらを見ていた。

その姿を見て、さすがの彼ら夫婦も、窓に駆け寄り、窓を開けようとする。

何やってるんですか?駄目ですよ!

Aさんの厳しい声が鳴り響く。

彼ら夫婦を窓から引き離してAさんがこう語りかける。

あのね・・・○○ちゃんは、もう死んじゃってるの・・・。

ママとパパに会いたい気持ちは分かるけど、それでママとパパが不幸になっても

良いの?

そんな姿でパパとママに会いにくる事自体が、誰も幸せにしないの!

分かる?

そう語りかけると、その娘さんの顔が突然、恐ろしい顔に豹変した。

あんた、関係ないでしょ?

ママとパパに会わせて!

ずっと一緒に居たいんだから!

そう言うと、家はガタガタと大きく揺れて、酷い耳鳴りが襲ってくる。

娘さんの顔は、残念だがもう既に、完全に悪霊と言って良いほどに、醜く崩れている。

生前の姿を知っている俺は、とても正視するのが辛かったが、それはAさんも

同じだったようだ。

目をつぶり、何かを呟いた後で、Aさんはもう一度、語りかける。

このままじゃ、○○ちゃんを浄化させなくちゃいけないの・・・。

でも、それは絶対にしたくないから・・・お願い、分かって・・・。

それでも、娘さんの顔は更におぞましいモノに変わるばかりだった。

Aさんは深いため息をついて、悲しそうな顔で、俺の顔を見て、目配せした。

それは、これから娘さんを浄化するという決断と、その為に、その様子を

見なくて良いように、彼ら夫婦を部屋から連れ出すように、という指示に

他ならなかった。

もう、それしか方法は残っていない・・・。

俺もそう思った。

その時、再び、彼ら夫婦が窓に駆け寄った。

そして、

パパとママの為に、お花、ありがとうね・・・。

本当に嬉しかった。

ママとパパも忘れていた結婚記念日を覚えていてくれたんだね?

本当に優しいものね・・・・昔からずっと・・。

そんな○○が、ずっと大好きだから・・・。

○○が一緒に連れて行きたいならそうしなさい・・・。

ママもパパも、いまでも○○の事が大好きだから、全然大丈夫だよ!

これからも、いつでも一緒に居てあげるよ。

でも、お兄ちゃんの事もあるから、ママとパパのどちらかだけ、残して欲しいな。

お願いだから・・・・。

彼ら夫婦は泣きながら娘さんに語りかけた。

すると、みるみる娘さんの顔が、生前の愛らしい顔に戻っていく。

そして、

私のせいで、ママとパパが離れ離れになっちゃうの?

そんなの私嫌だ・・・。

あのね・・・・ママもパパも、今でも私の事好き?

お花も喜んでくれた?

キョトンとした顔で聞いてくる娘に、彼ら夫婦は、大きく頷き、

勿論じゃないか!

お前より大切なものなんて何処にも無いんだから・・・。

そう言うと、娘さんは満面の笑みを浮かべ、

うん。わかった。私も大好きだよ。

ごめんね。ワガママ言って・・・。

でも、もう行くね・・・。

今まで本当にありがと!私もこれからもずっと大好きだから・・・。

そう言うと、娘さんの身体はまるで霧のように薄くなっていき、そのまま

暗闇の中に消えた。

静かになった部屋の中で、夫婦のすすり泣きがずっと聞こえていた。

それから、Aさんと2人で、外へ出て先程まで娘さんが張り付いていた窓

に向かうと、そこには、花で造られた大きな花輪が二つ落ちていた。

それを拾い、彼ら夫婦に渡すと、彼らは一気に号泣したのだが、その時、

どうやら、Aさんも涙が止まらなかったらしく、無言のまま、外に出で行った。

それから、彼らの家では怪異というのは収まったらしいが、それでも不思議な事は

起こっていた。

それは、彼らが再び、お店を再開してからというのも、亡くなった娘さんの姿を

見たというお客さんが後を絶たなかった、という事だ。

彼ら夫婦には全く見えなかったが、お客さんの殆どが娘さんの姿を目撃していた。

しかし、誰もその姿を見ても、恐ろしくは感じなかった。

まるで、生前と同じように、元気で愛くるしい顔でお店中で笑っている娘さんに

お客さんは皆、癒され、お店は更に繁盛している。

その話を聞いた俺は、Aさんに、

大丈夫なの?初七日過ぎてるのに・・・・。

と聞くと、

うん。全然問題ありませんよ(笑)

と嬉しそうに笑っていた。

コメント

非公開コメント