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updated date : 2018/03/08

目覚まし時計

これは友人から聞いた話である。

彼女は一昨年、母親を病の末に失っていた。

小さな頃からお母さん子だったらしく、いつも何をする時にでも、必ず

母親が側で見守ってくれていた。

そんな彼女だったから、母親が亡くなると、実家を出て1人暮らしを始めた。

やはり、母親の思い出が残った物に囲まれて生活していると、とても辛く

寂しい気持ちになってしまうのだという。

そんな彼女にも、後悔の念はあった。

それは、母親が亡くなる数年前から、何かにつけて母親に反抗的な行動を

とってしまい、きっと母親を悲しませていたのではないか、と考えている。

朝、起こしに来てくれたのも、朝食をしっかり食べなさいと口うるさく

言ってくれたのも、間違いなく彼女の事を思っての事なのだが、それが

分かっていても、どうしても反抗的な態度をとってしまったらしい。

そんな感じで1人暮らしを始めた頃は、母親の大変さがとても良く分かった

という。

そして、母親の面影を思い出して、つい泣いてしまった事もあるのだという。

しかし、どうやら最近は少し様子が違うらしい。

ある意味、怪奇現象の部類なんですけどね。

そう言いながら彼女はとても嬉しそうに話す。

1人暮らしを始めてから、仕事に力を入れるようになった彼女は、それなりに

遅くまで働き、お酒の付き合いさえするようになった。

そして、夜、部屋に帰ってくると、冬には部屋の中が暖かく、夏には部屋の中が

少し涼しくなっているのだという。

最初は気のせいかとも思ったらしいのだが、何度確認しても明らかに部屋の温度は

普通では考えられないほどに適温に保たれている。

更に、疲れて風呂に入った時も、ついウトウトしてしまい、湯船の中で寝てしまう

こともあるらしいのだが、そんな時でも必ず誰かが背中をトントンと叩いてくれるらしい。

彼女は、そんな時、少しだけ気味悪く感じた事もあったらしいのだが、ある日を

境にして、恐怖は感じなくなったという。

それは、遅くまで残業しての帰り道、バスを降りてマンションまでの道のりを

1人で歩いていた時の事だった。

ずっと、誰かが自分の後をつけて来ている気がした。

何度か歩調を変えたり、止まったりするが、やはり誰かが後ろから付いてきている

のは間違いなかった。

そこは人気が全くない寂しい道であり、彼女は不安に駆られ何度も後ろを振り返る。

すると、間違いなく、彼女の後方20メートル位の場所に男性の姿が見えた。

彼女は恐怖で思わず走り出してしまったらしいのだが、当然、背後の男も

走り出す。

そして、男の足音がどんどん近づいて来た時、突然、その男が

うわぁ~!

と大きな声を上げて、逆方向へ逃げ出した。

驚いた彼女は、恐る恐る後ろを振り返ると、そこには女性の姿があった。

暗くてよく分からなかったが、そのシルエットはとても亡くなった母親に似ていた。

思わず、駆け寄ろうとすると、その女のシルエットはそのまま暗闇の中へ消えていった。

それからは、彼女は、いつも母親に今でも護られているんだと考えるようになり、

とても幸せな気分なのだという。

そして、極め付けが朝の目覚まし時計らしい。

彼女が使っている目覚まし時計は、単純な構造であり、最近良くある、

何度止めてもそのまま寝ていると何度でも目覚ましが鳴るというタイプ

ではなく、1度止めれば、もう鳴らないタイプの目覚ましなのだという。

しかし、朝が苦手な彼女はいつも目覚ましを止めて、また少し寝入ってしまう。

実際、それで会社に遅刻した事もあるそうだ。

しかし、1度止めればもうならない筈の目覚まし時計が、何度でも鳴るのだという。

それこそ、彼女が起き上がるまで・・・。

そして、彼女が目覚ましを止めるたびに、目覚ましのセット時刻が5分後に

変わっており、当然5分置きに目覚ましが鳴るのだという。

勿論、彼女がそんな事をする訳もないのだが、それは生前、彼女の母親が

なかなか起きて来ない彼女に対して、行っていた事なのだという。

だから、朝は特にすぐ横に母親が居てくれるような気がして、ついつい何度でも

目覚ましを止めてしまうんですよね!

そう嬉しそうに彼女は話してくれた。

彼女の小さな幸せがずっと続く事を願わずにはいられない。


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