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updated date : 2018/03/09

ビルの屋上

その日俺はある場所に向かう為にバスに乗っていた。

 確か、知人のライブに呼ばれて、会場に向かっていたと記憶している。

 20分ほどバスに乗り、最寄のバス停で降り、そこからは徒歩での移動

だった。

 いつもは車での移動ばかりだから、歩いているとついつい周りの景色を



必要以上にキョロキョロと眺めてしまう。

 こんな所に公園があったんだ・・・・とか

此処も昔は空き地だったのにな

・・・・などと思いを巡らせながら

歩いていると何故か、頭上がやけに

気になってしまった。



そして、立ち止まり、上を見上げると、歩いていく道なりに大きな

ビルが

立ち並んでいる。

 ここら辺のビルってこんなに大きかったんだ・・・。

 そんな事を考えながら更にあたりのビルを見回していると、誰かがビルの



屋上に立っているのが見えた。

 別にビルの屋上に人が立っていたとしても普通ならそのまま気にも

留めない

のだが、その時見えたのは、ビルの屋上の一番外側ギリギリの

場所に立ち

眼下を見ている初老の男性の姿だった。



その姿はまるで思い詰めて今にも飛び降りそうな感じに見えた。



俺はしばらくその男から目が離せなくなった。



かなりの高さが在るにも拘らず何故かその男の顔まではっきりと

見える様な

気がした。



まるで、何かに絶望しまるで生気の無い顔で虚ろな表情を浮かべている。



すると、一瞬、その男と目が合った様な気がした。



そして、その時、その男は少しだけ笑ったように見えた。

 ヤバイ!

そう思うと同時に俺は走り出していた。

 先程見せた男の笑い顔は、まるでこの世で最後に出会った者に対する

惜別の

笑顔にしか見えなかった。



俺は人並みを掻き分けながら、その男がいるビルまでたどり着くと、

急いで

エレベータに乗り込んだ。

 そして、最上階まで昇ると、エレベータから降りて、暗い廊下を歩く。

 すると、どうやら屋上に出られるような鉄製のドアを見つけた。



俺は急いでドアに飛びつき開けようとすると、何故か鍵が掛かっている。

 何故鍵が掛かってるんだ?

そう思ったが、それよりも今は、先程の男の

安否の方が心配だった。

 急いでドアのロックを外し、飛び出すように外へ出た。

 外の明るさで一瞬、視界が遮られると同時に、俺は何かにつまずいてしまう。

 前に倒れるように手を着くと、そこはビルの屋上のギリギリの所であり、

 壊れた金網フェンスから身体が外にはみ出していた。

 俺は思わず血の気が引いた。



もう少しで落ちるところだったのだから・・・。

そして、ゆっくりと

周りを見回す。



しかし、先程の男の姿は何処にも見えない。

 確かに、今俺が居る、この位置に男は立っていた筈である。

 俺は、まさか・・・・と思い、屋上から恐る恐る下を見た。

 先程、男を見てからすぐに俺はこのビルの屋上まで上がってきた。



しかし、屋上には誰もいない。

だとしたら・・・・。

俺は嫌な確信を

持ったまま眼下を見下ろす。

 しかし、そこには、いつも通り、通行人が行き来しているだけであり、

 何の騒ぎも起こってはいなかった。



その時、まるで誰かに突き飛ばされた様な衝撃が背中に走る。



そして、俺の体は、更に屋上の外側に持っていかれる。

 しかし、何とか、錆び付いた金網のフェンスに摑まり難を逃れた。



俺はもう腰が抜けてしまい、そのまま尻を突いたまま後ずさりする

ように

フェンスから離れた。

 そして、そのまま逃げるようにビルから降りると、そそくさとライブ会場

へと

急いだ。



それから数ヵ月後、偶然Aさんと、そのビルの前を通る事があった。

 俺は、思い出した様に、あの時体験した事を話した。



そして、俺が、

信じないかもしれないけど、本当の話だから・・・。

 と言うと、Aさんは表情一つ変えずに、

別に信じますよ。

 だって、その男って、いつでもあのビルの屋上に居ますから・・・。



俺が、いつでも?なんで?と聞くと、

あれはあそこで自殺した男の霊ですからね。

 自殺した者は、永遠に死ぬ間際の恐怖を繰り返し味あわなければいけないから。

 だから、毎日、何度でも飛び降りるんです。

 そして、地面に叩きつけられた痛みと共に、気がつくとまた屋上に

立っている、

その繰り返しです。



そして、きっと1人で死ぬのに飽きたんでしょうね・・・。

 一緒に自殺する相手を探してる・・・。



そんな事をすれば、もっと苦しまなければいけないのに・・・。



馬鹿ですよね。本当に・・・。

 でも、良かったじゃないですか?

馬鹿は馬鹿同士、一緒に連れて

行かれなくて・・・。



そう言って笑った。

 それでも、納得がいかない俺は、更にこう言った。

 でも、あの時見た男は、どう見ても普通の人間にしか見えなかったのに・・・。

 すると、Aさんは、小馬鹿にした様な顔で、

だいたい、この位置から

屋上に立っている男の表情まで見える訳が無いでしょ?



もしも、見えてたとしたら、その方が怖いですよ!

それに、屋上の

あそこに在る貯水タンクですら、あんなに小さく、そして全部が



見えていないのに、その男が立っているのが見えるというのが、

あの得ませんから。

だったら、きっと、その男は身長が

10メートルくらいあったんですかね(笑)



そんな訳ないでしょ?



つまりはKさんに最初から良く見えるように大きくなってた

・・・。

そんな感じですかね・・・・。



そう言って更に笑われてしまった。

そんな事があってから、

俺はもう屋上を見ないように気をつけている。

 道連れにされるのはやはり御免だから。

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